モデルによる積分線量の予測

岡山大学大学院保健学研究科の北脇知己さんが、これまでの放射線量変化から各地の積算放射線被曝量を推定しております。このような情報が欲しかった。政府もこのようなグラフを出して、推定量を示した上で避難の有無を説明してくれたらと思います。以下に北脇さんのホームページにあるグラフを解説します。

1.まずは、(1)  宮城県のグラフ。

横軸は3月13日0時0分からの時間、縦軸は空間線量率(μSv/h)です。点々が各地の線量率の時刻毎の実測値です。実線は、最初にどさっと積もり、その後は半減期で減衰して行くモデルによる予想線量率カーブです。実測値とモデルのカーブが良く合っている事から、最初にどさっと降ってからは殆ど飛んで来ていない事が分かります。また、1200時間(50日)で降った放射性物質からの寄与がほぼゼロになる事が分かります。そこにずーっといた場合に浴びる線量の総計(積分線量)は、線量率μSv/hに時間をかけた物ですので、モデルによるカーブと0のラインで囲まれた部分の面積になります(※)。面積から求められた被曝量は、一番大きい大河原でも400μSvであり、外から浴びる放射線は全く問題ない量であることが分かります。念を押しますが、ここに一生住んでいても降って来た放射性物質(ヨウ素131)による被曝は最大400μSvと言う事です。ただし、これに内部被曝によるものが加わりますが、宮城県ではそれも健康に影響のない程度と考えられています。原発周辺の内部被曝量についてはSPEEDIの試算を参照ください。

*50日以降はほぼゼロですので、50日後であればそこに何年住んでも積分線量は無視できるほど小さい値です。

2.次は、(2)  福島県での環境放射線量測定値のグラフです。

これも実測点がモデルのカーブで良く説明できてます。やはり1200時間(50日)でほぼ0になる事が予想されています。将来にわたる総被曝量(面積)は、福島市で3.31mSv、飯館村で7.47mSvになっています。

3.最後は、(3)  福島県浪江町付近のモニタリングカーによる空間線量率ののグラフです。

これもモデルで良く説明できてます。1200時間(50日)でほぼ0も同じ。将来にわたっての総被曝量(面積)は、Post31で13.92mSv、Post31で34.14mSvとなっています。この予想値は、健康に害が無い上限とされる100mSvに達していないので、今のまま(新たな放射性物質の降下がない)ならば無理をしてまで避難する必要はないと考えられます。(一生屋外で浴び続けたとして34.14mSvです。)ただし、モニタリングポストの結果が示しているように局所的には線量率が数倍程度上下する場所もあると思われます。また、内部被曝の危険性も高くなります。慎重な対応が必要です。

飯舘村では土壌1平方メートルあたり200万Bq(4/2になってこの値が2000万Bqと伝えられてます。最終的には測り直して700万Bqに落ち着いたようです。)の放射能が検出されたようです(IAEAのニュース)。可能性は少ないとは思いますが、1平方メートルに散らばったヨウ素131を身体に取り込んで内部被曝した場合を考えましょう。このとき内部被曝による線量は、200万Bq×実効線量係数1.3×10-5=26mSvと計算できます。さきほどの飯舘村の空間線量による被曝と合わせると50mSvを越えることに内部外部被曝量の合計は、約35mSvになります。

追記:31日に原子力保安院が飯舘村では避難の必要なしと発表したようです。その根拠として被曝量が最大でも50mSvと見積もられたことが示されています。ここで紹介した約35mSvという値は、保安院の見積とほぼ同じになっておりますのでまあ妥当な値である事が分かります。(日本では土壌の汚染は深さ5cmまで採取した土1kgあたりの放射能で表します。おおよそ、1/20平方メートルで1kgになるようです。)

私見:以上のように、測定データにモデルをあてはめて解析する事で、限られたデータから将来の予測など、いろいろな事が理解できます。学問とは、このような事を可能にするためにあるのだと思っています。

「モデルによる積分線量の予測」への3件のフィードバック

  1. 岡山大の北脇です。
    ホームページを取り上げていただきありがとうございます。
    その後、さらに計算をして、上記の結果とは異なる結論を得ています。
    こちらの方もご紹介いただけるとありがたいです。
    よろしくお願いします。
     ↓
    http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~kitawaki/Radiation_Model_Sim_4.htm

  2. お声もかけずにリンクしておりましたことご容赦ください。新しい計算結果をざっとですが拝見いたしました。半減期の短いヨウ素の影響が小さくなった後の、半減期の長いCs137の影響が気になっていたのですが、それに関してきちんと解析がなされているのが主な改良点と考えてよろしいでしょうか。以前のものよりも、今後の長期的な被曝量の予測としてより精度が向上していると考えました。新しい記事として取り上げさせていただきます。ありがとうございました。

  3. コメントのとおり、半減期の長いCs137の影響を取り込んだ計算結果になります。
    このため、長期的な影響がより正確に推定できているのではないかと思います。
    よろしくお願いします。

コメントを残す