「Research」カテゴリーアーカイブ

フル稼働中

修士論文、卒業論文、そしてM1の分野セミナーに向けて、本研究室の主な実験装置はフル稼働中です。

光電子顕微鏡は、試料を800℃で加熱した状態で観測できるかどうか必死に実験中です。

ワイゼンベルグ反射高速電子回折装置は、新しい試料を仕込んで表面構造解析の準備中です。

ストリークカメラ反射高速電子回折装置は、修論の最後の追い込みで難しい実験を行っています。

もう少しでゴールです。気合いを入れて頑張りましょう。

雪の結晶で有名な中谷宇吉郎博士

雪の結晶で有名な中谷宇吉郎博士が無くなられて50年が過ぎ、この1月1日から博士の著作がパブリックドメインになりました。

すでに青空文庫で博士の著作「雪」を読むことが出来ます。

この「雪」には博士がなぜ雪の結晶の研究をはじめ、どのように研究を進めて行ったのか、その過程が分かりやすく書いてあります(文体は古いのですが)。どのように研究を進めたら良いのか悩んでいる学生の皆さんには良い教科書になると思います。

また、『中谷宇吉郎随筆集』(岩波文庫)に収録されている「科学と文化」は、科学とはどういうもので、科学を研究する者がどのように社会に貢献して行くべきかを説いた短い随筆です。以下に一部を抜粋します。

「科学は決してアルカロイドのようなものではなく、即ち極少量注射したら瀕死(ひんし)の病人が生き返るというようなものではなくて、実際は米かパンのようなもので、毎日喰(た)べていて栄養のとれるものなのである。科学というものは、整理された常識なのである。

「それは結論をいってしまえば、ある自然現象について如何(いか)なる疑問を起し、如何にしてその疑問を学問的の言葉に翻訳し、それをどういう方法で探究して行ったか、そして現在どういう点までが明(あきら)かになり、どういう点が益々(ますます)不思議となって残っているかということを、筋だけちゃんと説明するのである。

「特に高遠な議論にしたり、頁(ページ)数を増したりする目的でやたら難しい言葉を使うことはこの場合厳禁である。何といっでも本当に面白い点は事実の羅列にあるのであって、議論にあるのではないということをよく知って置く必要がある。」

そうです。事実の羅列が面白いのです。

地震の影響か?

先日書いたように久しぶりにスピン偏極電子銃を稼働させようとしたところ、真空ポンプの一種であるターボ分子ポンプが回らないことに気づきました。ターボ分子ポンプはジェットエンジンのように羽根のついたタービンが高速で回転することで空気を圧縮して排気します。研究室で使用している装置の中では特に振動に弱い機器です。震災後は使用していなかったのであのときの大きな揺れで壊れてしまったようです。地震の時は止まった状態でしたので大丈夫だろうと思っていたのですが、やはりすごい揺れだったのですね。

スピン偏極電子銃

今日から久しぶりにスピン偏極電子銃の実験を再開しました。今週末にはセシウムの蒸着を行う予定です。セシウムは金属の中で最も仕事関数が小さいのでフォトカソード(光電陰極)に蒸着することが多いのです。蒸着することでたくさん電子が出るようになります。

Ultra High Vacuum(超高真空)

本研究室では物質表面の研究を行うため、ほとんどの実験を超高真空環境で行います。大気中では、含まれる酸素や水分により、表面が覆われてしまったり表面が変質してしまうためです。物質の本当の表面を研究するためには、表面に水分や気体が飛んで来ない環境「超高真空」が必要になるのです。

ではどのぐらいの真空度が必要でしょうか?

真空度が10^{-6} Torrの気体に表面が曝されるとき、全ての表面原子に1秒間に平均1回ずつ気体分子が衝突します。1気圧は760 Torrですので大気圧より9桁ぐらい薄い気体です。衝突した分子が必ず表面にくっつくとすると、この真空度では1秒間しかフレッシュな表面を保つことは出来ません。

実験により表面を観察する時間を考えると、最低でも1時間は、表面をフレッシュな状態で保ちたいものです。そうすると10^{-6} Torrの1/3600、すなわち3 \times 10^{-10} Torrの真空度が必要になることが分かります。このように非常に高い真空のことを超高真空と言います。通常は10^{-9} Torrから10^{-11} Torrの範囲を超高真空と呼びます。

本研究室では通常10^{-10} Torr 以下の真空環境を作ってその中で表面の研究を行っています。

最近は真空を表すのにもPa(パスカル)という単位を使うことが一般的になりました。換算は以下の式で

1 \mathrm{[Torr]} \approx 1.3 \times 10^{2}\mathrm{[Pa]}